ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』紹介と感想

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ノンフィクション
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』紹介と感想
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 行動経済学の第一人者であるダン・アリエリー氏の『予想どおりに不合理』を紹介します。同じく行動経済学者であるリチャードセイラー氏が2017年にノーベル経済学賞を受賞したことで近年この行動経済学という学問がとても話題になっています。
 ダン・アリエリー氏は豊富な実験とユーモアに富んだ語り口で人間の不合理な行動を次々と指摘し、今までの経済学に不足していた人間の不合理性を明らかにしています。
本書で明らかになる人間の不合理な行動を楽しみながら読み進めることで、自分自身の不合理な行動を制御することにも繋がります。
 仕事にも勉強にも「面白くて役に立つ」そんな一石二鳥のおすすめの一冊です。一読されることを強く勧めます。

あらすじ

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」―。人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない!行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 予定を先延ばしにしてしまったり、必要のないものを高額で買ってしまったり、私も含めた多くの人々は日常生活において合理的な行動をすることがなかなかできません。しかし人々がそんな不合理な行動をするということがわかっていたにも関わらず、今までの経済学は人間が合理的な行動をすることを前提として経済を分析・研究していたのです。そんな人間の不合理な行動を経済学に反映させることに真剣に取り組んだのが行動経済学です。これにより経済学では説明できなかった事象が次々と明らかになっていきます。

経済学では説明できなかったこと

 先述の通り、経済学は人間が合理的に行動することを前提として研究されてきた学問です。本書ではそんな経済学では説明できないことを多くの実験を通して複数の事例を紹介してくれています。どれも共感できてしまうことばかりで行動経済学の意義に頷いてしまう威力を持っています。そのなかからいくつか印象的な実験をご紹介します。

おとり効果の実験

 さて、みなさんは商品の価格をどの様に判断していますか?買いたいと思っている商品について、自分の経験からその商品の相場をわかっている時は迷うことも少なく判断することができるかもしれませんが、相場がわかっていない時などは他社の商品と比較したりしながら、相対性でその商品の価格を判断するかと思います。

 本書でアリエリー教授はエコノミスト誌の購読を下記の3つの選択肢に分けて学生たちが①②③のどれを購読したいと思ったかを調査しました。

  1. ウェブサイト版のみの購読(59ドル)
  2. 印刷版のみの購読(125ドル)
  3. ウェブサイト版・印刷版のセット購読(125ドル)

 この3つの比較ですが、②については印刷版のみであり③のセット購読と同価格なので、②を選ぶ人は一人もいないというのはおわかりになるかと思います。実験対象である学生たちも②を選んだ人は一人もいませんでした。では②の存在意義は何なのでしょうか。それは③を選ぶための「おとり効果」を狙ったもので、②の選択肢がある時に③のセット購読が圧倒的に多く選ばれることとなったのです。その証明として、②の表示をなく①と③からどちらの購読を希望するかを調査するとおとりがあった時と比べて50人以上多くの学生が①の購読を選んでいたとのこと。これにより人間は商品選択の判断を相対的に行っているということが説明できることになりました。そしてこの相対性というのはあらゆるところに潜んでおり人々は注意しなければならないと教訓を述べています。年収が上がり一度良い車を購入したら次は更に良い車に乗りたくなる、いくら稼いでも結局フェラーリに乗るまでこの連鎖が続いていくように、個人の経験にも相対性は関係しているのです。

 アリエリー教授は本章の最後にこの様な不合理な判断をしてしまうことを防ぐには、相対性の連鎖を絶つことが必要だと述べています。今回の例で言うと「トヨタのプリウスを買う」ということです。

ゼロコストのコスト

 そこら中に蔓延っていて誰もがすぐに魅力に感じてしまう「無料!」というキャンペーン。タダより安いものはないと思い、キャンペーンに手を出してしまうことは誰でもあることかと思います。本章ではいかに「無料!」が人々を惹きつけているのか、多くの事例を紹介しながら注意を呼びかけています。

 なになに、自分なら無料!を制御できる気がする?
 よろしい。では問題を出そう。無料で十ドル分のアマゾンギフト券を受けとるのと、七ドル出して二十ドル分のアマゾンギフト券を受けとるのではどちらがいいだろう。ぜひ即答を。あなたならどちらを選ぶ?
 もし無料!のほうに飛びついたとすれば、わたしたちが以前ボストンのショッピングモールで調査した人たちの大半と同じだ。だがよく見てもらいたい。二十ドルのギフト券を七ドルで手に入れれば、十三ドルのもうけになる。十ドルのギフト券を無料で手に入れる(十ドルもうける)より得なのはあきらかだ。不合理な行動がとられているのがおわかりだろうか。
 
 わたしたちは、一ドル出して十ドル分のアマゾンギフト券をもらうか、八ドル出して二十ドル分のアマゾンギフト券をもらうかという実験もした。この場合、ほとんどの実験協力者が二十ドル分のギフト券に飛びついた。

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) p.108~p.109

 この一節を読むだけでいかに「無料!」に人々が惹きつけられてしまうかがわかりますよね。更に無料ではなく一ドルを出す実験と比較してみると、無料でない場合においては人々は合理的に判断ができていることも明らかになっています。自分では合理的な判断をしていると思っても「無料!」という言葉は、人々にそもそも合理的な判断をさせない魔力を持っていることがわかります。

社会規範のコスト

 無料!の魔力に続いて、「無報酬」が人々にもたらす意義についても詳細な実験が行われています。
ボランティア活動など、人は時に報酬が発生しないかたちで労働をすることが多くありますが、この様な労働と報酬の関係性について深く考察がされています。

 ある単調な仕事(コンピューターで画面右にある円を画面左にある四角にドラッグで移動し続ける)を、通常の報酬として五ドル支払うグループ、非常に少ない報酬として十セント支払うグループ、報酬を支払わずに無料の依頼をするグループに分けて労働量を調査する実験を行いました。
 その結果、十セントを支払うグループが最も低い生産性であり、無料の依頼で作業をしたグループの方が圧倒的に高い生産性を記録したのです。これをどの様に説明できるのでしょうか。
 その答えは、参加者が報酬が発生している場合はその仕事を「市場規範」つまりお金に見合った労働をすることになったためです。先述のボランティア活動のように、人々は社会性をもっているため無報酬で社会に貢献する「社会規範」も市場規範と並行して持っています。
 この実験で十セント支払ったグループは少額とはいえ金銭を発生させてしまったために、判断基準から社会規範を追い出してしまい市場規範のなかだけで「この労働で十セントは安すぎる」という感情を持つに至ったのだと考えられます。

仕事にも人生にも活きる学問

 楽しみながら我々に合理的な判断をさせてくれる知的な武器である行動経済学は、仕事にはもちろん消費者として暮らす私たちの日常生活でも大いに役立ちます。
 行動経済学は他にもたくさんの書籍が出ていますが、個人的には本作『予想どおりに不合理』がアリエリー教授のユーモアにより最も楽しめる一冊となっており、繰り返し読み直しています。
すぐにでも実践できる魅力的な考え方ばかりなので、ぜひ一度読んでみてください。

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