内田樹『待場のアメリカ論』紹介と感想

内田樹『待場のアメリカ論』紹介と感想エッセイ
内田樹『待場のアメリカ論』紹介と感想
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 現代フランス思想家であり武道家の内田樹さんの『待場のアメリカ論』を紹介します。
本書は内田樹さんが大学院で講義を行ったものを録音し(当時主流だったMDに!)加筆修正したものが出版されています。
 「現代フランス思想家で武道家がアメリカ論?」と思うかもしれませんが、内田樹さんの豊饒な知識とユーモアある語り口によって繰り広げられるこの講義は、アメリカの専門家ではないからこそ、外からの視点で捉えたアメリカの歴史や文化が浮かび上がってきます。
 開拓の歴史からファーストフードまで、アメリカという国を幅広く理解するのに大いに役立つ一冊です。

おすすめする理由

  1. 身近なことからアメリカという国をざっくり理解できる
  2. 普遍的なトピックのため廃れることがない
  3. 歴史を学ぶ意義を知ることができる

本書はアメリカ史を勉強してみたいという方に特におすすめです。また、単純に読み物としても抜群に面白くて読みやすいので気軽な気持ちでも読んでほしいと思います。

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身近なことからアメリカという国をざっくり理解できる

 本書は内田樹さんが大学院で講義を行ったものが収録されています。専門家ではない内田樹さん、フランス現代思想家であり哲学者であり武道家でもありますがアメリカに関しての専門家ではありません。
しかしそんな専門家ではない内田樹さんだからこその視点でアメリカという国の歴史から文化までを理解することができます。

 例えば私たちにも身近なテーマだと「ジャンクで何か問題でも?」というジャンクフードについての考察が書かれた章があります。日本にもすっかり定着したマクドナルドをはじめとしたファストフードについては、グローバル化を考えることにより「日本の食文化が廃れてしまう」といった思想に触れることも多くあるかと思います。
 こういった身近な問題についてはそれぞれの考え方があって然るべきものですが、柔軟で芯のある考え方を持っていないと時に人とうまくいかないこともあるでしょう。内田樹さんはこの思想について、とても柔和で対話的な解決策を語ってくださっています。

 「日本の伝統的な食文化を守ろう」。まことに正しいスローガンです。
 食文化はたいせつにしたい。私だって、そう思います。でもそれが別の食文化を排斥するところまで過激化すると、ちょっとブレーキをかけたくなります。
 (中略)
 私たちは自分が食べているものについて「げ、よくそんなものが食えるな」というような批判をされると、けっこう傷つくものです。

街場のアメリカ論 (文春文庫)  p.71

 食事というのはただたんに一人一人が生きていくためだけでなく、他者とコミュニケーションする際に行われる行為でもあります。
 そのためそんな身近な食事について排外的な思想を持ってしまうより、自分の拘りは持ちつつも周囲の人への寛容な姿勢と理解を持った方が自分も周りもストレスなく生きていけると思います。
アメリカという国の文化をきっかけに身近なことに関心を持たせてくれるとても面白く学びのある一節です。

普遍的なトピックのため廃れることがない

 この本は2003年に行われた講義がもとになっています。あとがきで内田さんも書いていますが、本書は何年も後の読者にとってもわかるリーダブルな内容を心掛けていたそうです。
それは本書が『アメリカのデモクラシー』という180年以上前に書かれた古典を書いたアレクシス・ド・トクヴィルが読んでもわかるように書いたからだと言います。
 『アメリカのデモクラシー』が未だに読み継がれているように、その国の普遍的なトピックを見出しその国のことを何も知らない人に向けて本質的な考察を書いたあるため、これから何年たっても役に立つ知識が身につく一冊となっています。

 アレクシス・ド・トクヴィルについて聞いたことがないという方も多いかもしれませんが、日本とは違ってアメリカでは誰もが読んでおり、まさしく古典として扱われている政治思想の一冊です。

歴史を学ぶ意義を知ることができる

 本書の第一章に「歴史学と系譜学」という講義が収録されています。僕はこの章が大好きで何度も何度も読み直しています。ここではアメリカ史を通して歴史を学ぶ意義を感じられる知識と考えが披露されます。

 「世界史は最高の教養」とか「ビジネスで歴史が役立つ」などのネット記事を時々目にしますが、本当に歴史に詳しくて何か役に立つのだろうか…。そんなことを感じたことがある人も多いのではないでしょうか。おそらくアメリカの開拓史について物凄く詳しくなろうとも来月の給料が上がるかと言うと全くあがりませんし、歴史の知識がどこでどう役に立つのか実感できない人も多いかと思います。
 それでも本書ではアメリカ史の流れを説明しながら、歴史を学ぶことで現代人ひとりひとりが世界中の出来事と自分の一挙手一投足が関わりあっていると感じることができると説いてくれます。

 …さて、これはどういうことでしょうか。内田樹さんは歴史の勉強において年号を覚えることは大切だと言います。年号を覚えることで歴史上の人物や出来事がどの様に関わったかを想像できるようになるとのことです。リンカーンが奴隷解放宣言をした時にカールマルクスが祝電を届けたエピソードを引用し、アメリカ史と社会主義を別々に勉強しても決して気づくことができない関係性を想像するには年号を覚えることが最低条件になることを教えてくれます。
 ここから内田樹さんの壮大な歴史トークが繰り広げられるのでぜひ本書をお読みいただきたいのですが、この様に世界史の繋がりを想像することによって世界中の出来事が複雑に関係しあって現在に至っていることを実感することができるようになるのです。それにより一人一人の一挙手一投足が世界と関わって未来に影響力を持っていると希望を持つことができると教えてくれています。

 この本を読んだ時に僕は歴史の勉強をこの様な考え方で捉えておらず、目から鱗が落ちる思いでした…。この読書体験以来、歴史の本を読むごとに自分と世界の未来を意識して好奇心を失うことなく生活ができていると思います。

どのように役立つのか

ニュースや娯楽を見る視点が変わる

 本書は体系的に網羅した歴史を勉強できるわけではありませんが、一読することでアメリカという国に対してひとつの視点を得られることができると思います。
 もちろんこれだけで知った気になってはいけませんが、何もわからずに漠然と大国として捉えているとニュースを見てもただ傍観するだけになってしまいますので、本書をきっかけにある程度の価値観を持ってニュースにも対峙できるようになると思います。

 教養をつけなきゃ!と思ってアメリカ史の本を買っても分厚くて難しく挫折してしまう可能性が高いと思います。。本書のように読みやすいものから少しずつ理解していくというのは結果的に理解する近道になります。文庫本で気軽に読めるので「アメリカ史入門」として読んでみましょう。

日本についても考えることができる

 現代は日本人も多くの外国人と交流することが当たり前になり、彼らとコミュニケーションをする機会が各段に増えてきました。外国人と接する時によく感じることが、自国である日本のことを語ることができないということです。語学の問題ももちろんあるのですが、あらためて海外の人に伝えるとなるとしっかりした考えで尚且つ知識が整理されていないと彼らに伝わるような説明は決してできるようになりません。

 本書はアメリカ論ではありますが、アメリカという国の歴史を通して私たち日本人がどう生きていくかを考えていくきっかけを与えてくれる一冊です。日米関係は政治的なことだけに留まらず、ファーストフードまで私たちの日常にも非常に強い影響をもたらしています。
 そんな現代から未来にかけてその関係性を無思考に受け入れて暮らしていくのではなく、意志を持った行動をもって暮らした方が豊かに暮らせると思うんです。アメリカナイズされた日常を受け入れて生きることも良いですし、日本の伝統に意義を見出して商品を選ぶことも良いと思います。
 いずれにせよ考えるうえでの指針を持てる、豊富な知識と柔軟な考え方を得ることができるはずです。

最後に

 今回は内田樹さんの『待場のアメリカ論』を紹介しました。アメリカに関わる本は本当に多く出版されており選ぶのも一苦労だと思います。
 本書はそんななかでも入門に最適、且つ独特な価値観も得られるまさに一石二鳥な一冊です。ぜひ読んでみてください。

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