斎藤幸平『人新世の「資本論」』紹介と感想

斎藤幸平『人新世の「資本論」』紹介と感想新書
斎藤幸平『人新世の「資本論」』紹介と感想
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 斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』を紹介します。僕はNHKの100分 de 名著という番組をよく好んで観ています。古今東西の古典を1回25分、月に4回で毎月1冊を読み解いていくという番組で、2021年1月に取り上げられたのがカール・マルクスの『資本論』でした。その時の案内役が『人新世の「資本論」』の著者である斎藤幸平さんで、『資本論』の理論を武器にした斎藤さんは現代社会の暗部を一刀両断してぶった切りまくっていました。
 ブラック企業問題や人々が仕事にやりがいを持てずに心を病んでいく現象まで、マルクスは全て予測できていて長きにわたって警鐘を鳴らしていたのだと、そして今こそその警鐘に耳を傾けなければならないと強く感じさせるような魅力的な回だったのです。
 これを機に斎藤さん自身が著した『人新世の「資本論」』を読んでみました。番組では『資本論』を軸に労働についての説明が多かったですが、番組の後半に紹介された気候変動に関する問題に特化した内容が本書には書かれています。マイボトルやエコバックを買うことだけは決して解決することができないところまで、現代資本主義は発達してしまった。その解決のためには根本的なシステムから変えていく必要があると斎藤さんは説きます。
 そして、その問題について考えるうえで、マルクスの『資本論』と彼が本当に描いた社会はどんなものだったのかを研究することが大切であり、私たちにもできることの提案もされています。2021年の新書大賞にも選ばれた、ぜひとも読んでおきたい一冊であるかと思います。

「SDGsは大衆のアヘンである!」という呼びかけ

 人類が気候変動や環境破壊といった問題に対策すべく掲げた「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について、「SDGsは大衆のアヘンである!」という挑発的な言葉で一蹴することからはじめた、本質的に地球規模の問題を解決するために必要な考え方をカール・マルクスの『資本論』を読み解きながら説明してくれる話題の一冊です。
 ちなみに「SDGsは大衆のアヘンである!」というのは、大衆が宗教にあきらめとなぐさめを求めて不幸を改革することを辞めてしまったことに対してマルクスが使用した「宗教は大衆のアヘンである!」という言葉をもじったものです。マルクスが残した膨大な資料を研究することで、彼が思い描いた社会は我々が思い描いていた歪みだらけで競争まみれの資本主義ではなく、持続的でゆたかな社会だったことが明らかにされていきます。

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脱成長とコモンズの再生の提唱

 本書の序盤では、豊富なデータと事例から大量消費社会を続けていく限り、環境問題は解決不可能であることが説明されていきます。新技術の開発によって省エネ化されたテレビが開発されても人々はより大型のテレビを購入するようになり、結果的に電力の総消費量は増加してしまいます。この様に人々の止まらない欲望を前提にした資本主義システムでは、SDGsの目標を達成することは不可能であることがわかります。

 そこで斎藤さんが提唱するのが脱成長という考え方とコモンズの再生です。脱成長というのは人間と自然が共存して繁栄できることを目指した考え方です。資本主義というのは自己増殖を目的としたもので絶えず資本を増長して経済成長を求めていきます。これは『資本論』に本当に詳しく書かれていることです。しかし資本主義は自己増殖を続けていくため、その過程で周囲のゆたかな自然がエネルギーとして使用されどんどん枯渇していってしまいます。現代においてはその成長と枯渇が限界まできてしまっているため、成長にブレーキをかけて人間と自然で共存していくことを目指すのが脱成長だということです。
もう一つのコモンズという考え方は、公共交通機関や電気、水、医療、教育などを共通の財産と考えて、それぞれの自治体ごとに管理して無償で提供するものを市民で利用していこうというものです。
 共通財産であるものは市場の原理に任せてはいけないという考え方で、こちらは宇沢弘文さんが提唱した社会的共通資本という考え方と同様かと感じます。

最後に

『資本論』というと、資本主義や労働について研究するために読む古典かとイメージしてしまいますが、斎藤さんは『資本論』を現代の気候変動問題の解決に用いたところが最大のインパクトだったように思います。本書で大きな影響力を持つことになり、今後のご活躍も大いに期待しているところです。

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