エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』紹介と感想

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エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』紹介と感想古典
エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』紹介と感想
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 『自由からの逃走』はドイツ生まれの心理学者エーリッヒ・フロムによって1941年に刊行された心理学の古典的名著です。
 本書は「自由であること」について人類の歴史から遡って考察されていますが、当時の世界が全体主義に傾いていく過程を人間の心理状態を詳細に説明して明らかにしています。「自由とは何か」ということを考えるうえで、これ程役に立つ本は他に少ないと思います。

概要

現代の「自由」の問題は、機械主義社会や全体主義の圧力によって、個人の自由がおびやかされるというばかりでなく、人々がそこから逃れたくなる呪縛となりうる点にあるという斬新な観点で自由を解明した、必読の名著。

自由からの逃走 新版

 長い歴史を遡ると人類は何百年にも渡って決して自由を与えられておらず、禁欲や管理された人生を強いられ、それを受け入れて生きてきましたが、近代に入り人々には自由が与えられるように時代が変化・進歩していきました。
 しかしいざ自由を手に入れた人々は自由の重荷に耐えかねて、自由から逃走するように全体主義に傾倒していってしまいます。これは一体どういうことなのでしょうか。

自由を勝ち取るまでの歴史的考察

 本書では「自由」という概念への深い考察が行われます。その考察は家族という共同体についての考察である社会的な観点や経済的観点から、資本主義とプロテスタンティズムの発展といった歴史を遡った考察まで非常に詳細に説明されていきます。

「・・・からの自由」と「・・・への自由」

 本書では「・・・からの自由」を「第一次的絆からの自由」と呼び「・・・への自由」を「第二次的絆からの自由」と呼んでいます。第一次的絆というのは、人間が胎児である時は母親の母体に存在して生まれ育ち、やがて自立していくまでの過程で結びついている、家族やもともと属していた共同体との絆のことを呼びます。子供は成長していく過程で外界と接する機会を増やしていく毎に、自発的な選択や決断をする必然が生じ、外界に向けて接していくために第一次的絆から脱却していかなければなりません。しかし第一次的絆への依存は多く、困難な決断を迫られた時にそこから逃げ出そうとすると、第一次的絆からの服従に屈する状態に戻ってしまいます。
 この様な家族や社会のような制度的絆「からの自由」から「・・・への自由」という第二次的絆への積極的な自由への過程を読み解くため、本書では宗教改革まで遡って歴史的な考察を行います。

宗教改革 資本主義の発展とプロテスタンティズム

 プロテスタンティズムが発展し資本主義が世に拡がることによって、人類を封建的な束縛から解放し、積極的な自由は増加されて能動的で責任を持った自我を成長させることとなりました。しかしその一方で発展した資本主義は人間を孤立化させてしまい、人々に無力さや無意味の感情を与えることにもなってしまったのです。資本主義が進むことによって、人々の自我を評価するものが「市場」になったという大きな変化があります。
 以前は身近な共同体が自我を認めてくれており、市場と接し市場から評価される範囲は少なかったのですが、資本主義によって個人の人生の多くの範囲に市場の評価が関わるようになります。市場から評価されるものというのは具体的には「財産の所有」「名声と権力」「家族」が挙げられています。いずれも現代で我々が人目を気にしているステータスの様に感じます。
 人々はそんな市場の評価に晒されながら社会の発展と進歩のなかを生きていかなければなりません。
その成長の過程で第一次的絆からの自由を勝ち得ることを上回る心理的な重荷が、人々を第一次的絆へ依存させてしまい、自由から逃走してしまう人間の心理に繋がっていきます。

孤独・責任・決断の重荷

 その様な過程を経て人々は自由の重荷に耐えかねて、自由の意味を履き違えていってしまいます。
人は誰もが孤独を強く恐れており、社会とのつながりを求めています。つながりや社会からの評価を求める際に全員がそれぞれ自発的な選択や決断を行って社会と接することができれば良いのですが、
「決断をする」ということは心理的な負担が非常に大きく、周囲に頼ることができるものがあればそれに依存するような気持ちが生じてしまうことになります。
 フロムが本書を出版した1940年代は全体主義の恐怖が世界を席巻していた時代です。その様な拡がりを見せているイデオロギーが身近にあった場合、決断することの重荷に耐えられない人々は全体主義に傾いていってしまうことになります。
 「自由とは何か」を歴史的に考察しつつ、当時の人々と社会に向けた正義感の籠った力強いメッセージが本書に宿っているように感じます。

最後に

 人類が社会の発展と並行してどの様に自由と向き合って生きてきたのか、経済的観点や社会的観点、心理的な観点を合わせて考察しながら、本書では詳細を次々と説明していっています。
 現代でも一切色あせることのない古典的名著ですので、本書を通して「自由とは何か」を考えてみてほしいと思います。

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