中島らも『ロバに耳打ち』紹介と感想

中島らも『ロバに耳打ち』紹介と感想エッセイ
中島らも『ロバに耳打ち』紹介と感想
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 天才作家とも奇才作家とも呼ばれる中島らもの『ロバに耳打ち』を紹介します。小説のイメージが強いかもしれませんが、エッセイも多く書いており、日常どんなことを考えているのかを知ることができるところが魅力です。今日はそのなかから『ロバに耳打ち』を紹介します。

あらすじ

昨日、酒を一升飲んでしまった。ぶ厚いイカの一夜干しが「お酒がほしいよう」とおれの左腕を引っ張るのだから、仕方ない。「記憶の中島」と呼ばれた異常な記憶力のおれも、今では昼に喰った飯すら忘れる。両親のこと、幼少期のこと。ゆる~い中に懐かしい匂いがする、らもエッセイ。「お悩み相談」も収録。

ロバに耳打ち (講談社文庫)

 本作『ロバに耳打ち』はあらすじにもあるように、ゆる~く肩の力の抜けたユーモア満載のエッセイです。
 哲学的な深みのある考察や奇想天外な発想を持ってエッセイや小説を執筆していることが多いイメージですが、普段はこんなに緩い雰囲気で日常を過ごされているんだと思える、面白エッセイになります。何かに悩み過ぎている時に読むのも良し、暇を持て余している時にふと読み始めてみるも良しのお気軽な一冊です。

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弱さをユーモアに

 本作は語り口も他の作品に比べて力が抜けており、どこかユーモアのある文章ばかりで書かれている印象を受けます。笑いを誘う語り口ではありますが、自身の弱い部分を認めたうえでそれを笑いに変えて弱さを「価値」に昇華させているように思います。
 どこで書いていたかは忘れてしまいましたが、人を泣かせることに比べて笑わせることの方がはるかに難しいと書いていました。自分の弱いところを世の中にさらけ出し、それを笑いに変えて読者に生きる活力を与えています。そんな価値ある話を3つほど紹介します。

「一升酒を飲む」

 タイトルを見ていただければわかることですが、銘酒「くにぎく」を一人で一日で一升飲んでしまったという話です。お酒を飲む人ならわかると思いますが、一人で一日に一升飲むなんてなかなかできるものではありません。
 飲んではいけないとわかっていたようですが、イカの一夜干しが10本の手でらもさんの手を引っ張ったとのこと、酒(イカ)に負けてしまった弱さを笑いに変えた話です。
僕はここまで飲めないので、飲み過ぎてしまった時にこの話を読むことがあります。「おれは全然飲み過ぎてない」という気になれます。。

「トリスが呼ぶナマコ」

 僕も大好きなウイスキー「トリス」への偏愛とも言える愛情が書かれている話です。トリスはサントリーが出しているいわゆる「安酒」であり、今は「トリスハイボール」略して「トリハイ」として親しまれていますが、らもさんはトリスの愛飲者であり毎日酒屋にトリスを買いに行っていた時期があるそうです。
 トリスの良いところは「味がないところ」という、ある種到達した人にしか理解できないこだわりを持っています。味がないというのは批判ではなく、媚びていない味であり純粋に酔うことができるといった意味合いで好んでいるようです。
 味がないところが良いというのは僕にも理解できるところがあり、媚びていないために居酒屋などでどんな食事とも合い、多くの人に好まれているのかもしれません。
 そしてらもさんはスーパーでトリスの肴を探し結果的に「ナマコ」を買って呑むことがあるそうな。試したことはないのですが、媚びない酒なので合うのかもしれませんね。

「三十路のうつ病」

 29歳の終わりにうつ病になったことについても書かれています。次の電柱まで歩くことができないほどの症状だったそうですが、医師からうつ病の診断を受けた時のことをこう振り返っています。

 「中島さん。あなたは立派なうつ病です。でもね、あのゲーテだってうつ病だったんですよ。」
 何を言いやがる。おれとゲーテと何の関係があるんだ。

ロバに耳打ち (講談社文庫) P..146

 物凄く辛く苦しい出来事だったはずですが、この様な振り返り方で過去の苦しみを笑いに変えている僕の好きな話です。

最後に

 過去に紹介した青春時代が描かれたエッセイ『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』のあとがきでは次の様に語っています。

 十代前半の明るさに比べると、後半はひたすらに暗い。ほんとうのところはこの後に「超絶的に明るい、おじさん時代」というものが忽然と横たわっているのだが、そのあたりのことはまたの機を待って述べたい。

『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』P.228

 本作『ロバに耳打ち』はまさに「超絶的に明るい、おじさん時代」時代を描いたエッセイのひとつです。僕も若い頃は将来への迷いなどを持ち、鬱屈した気持ちや不安を抱えることが多かったのですが「超絶的に明るい、おじさん時代」を過ごせるかもしれないと思うと少し気が楽になったものです。ただのゆる~いエッセイと言ってしまえばそれまでですが、僕にとっては気楽に人生を考えられるきっかけをくれた大切な一冊です。ぜひ読んでみてください。

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