アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』紹介と感想

アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』紹介と感想本の紹介
アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』紹介と感想
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 説明不要の不朽の名作『そして誰もいなくなった』を紹介します。しかし説明不要と書いたものの、知ってはいるけど実は読んだことがないという人も多いはず。個人差はありますが1日で読み切れる作品ですので、まだ読んだことがない人はすぐにでも読んでみてください!

あらすじ

 面識がなく職業や年齢もバラバラな10人が、孤島である「兵隊島」への招待状を貰うところから物語は始まります。この島を訪れた10人ですがそこに招待主の姿は見あたらず、代わりに不気味な童謡と兵隊の人形が見つけられることに。
 やがて夕食の席上で参加者10人の過去の犯罪を暴く謎の声が響き渡り、そんななか10人のうち1人が不審な死を遂げます・・・そして不気味なマザーグースの歌詞の通りに、彼らは一人ずつ殺されていくのです!

クローズドサークルと童謡マザーグース

 『そして誰もいなくなった』は孤島を舞台にしており、その閉ざされた環境のなかで、人が一人ずつ死んでいく描写が歌われるマザーグースに沿って殺人が次々と起こっていきます。この2つの設定が読み手が息つく間もなくなってしまうような、本作の設定が本書を最高傑作と呼ぶ理由の一つになっています。少し詳しく見ていきましょう。

クローズドサークル

 ミステリ小説の分類では、何らかの事情により外の世界との行き来および連絡の手段が絶たれた状況下で起こる事件、これを扱った作品をクローズドサークルと呼びます。
 アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』、『ナイルに死す』もそれぞれ列車内・船上という閉ざされた状況下で起こる事件を扱っているため、同様にクローズドサークルのミステリ作品と呼ばれています。起源は明確ではないようですが、絶海の孤島という設定でクローズドサークルの要素が著しく強い『そして誰もいなくなった』が代表作として挙げられることが多いようです。

 ちなみに、出版年は『オリエント急行の殺人』が1934年、『ナイルに死す』が1937年、『そして誰もいなくなった』が1939年です。

マザーグース

 本作の序盤に、体育教師の招待者であるヴェラが子供のころから知っている童謡の詩が寝室に飾られているのを発見します。イギリスで古くから口誦として伝承された童謡のことを通称マザーグースと呼び、マザーグースの歌詞になぞらえた内容で殺人が行われていくという恐ろしい設定が本作のもうひとつの特徴となっています。

 ヴェラが見つけたこの詩は、「十人の小さな兵隊さん」という童謡で歌詞は下記の通りです。

「十人の小さな兵隊さん」
小さな兵隊さんが十人、ご飯を食べに行ったら一人がのどをつまらせて、残りは九人
小さな兵隊さんが九人、夜ふかししたら一人が寝坊して、残りは八人
小さな兵隊さんが八人、デヴォンを旅したら、一人がそこに住むって言って、残りは七人
小さな兵隊さんが七人、まき割りしたら一人が自分を真っ二つに割って、残りは六人
小さな兵隊さんが六人、ハチの巣をいたずらしたら一人がハチに刺されて、残りは五人
小さな兵隊さんが五人、法律を志したら一人が大法官府に入って、残りは四人
小さな兵隊さんが四人、海に出かけたら一人がくん製のニシンにのまれて、残りは三人
小さな兵隊さんが三人、動物園を歩いたら一人が大きなクマにだきしめられて、残りは二人
小さな兵隊さんが二人、ひなたに座ったら一人が焼けこげになって、残りは一人
小さな兵隊さんが一人、あとに残されたら自分で首をくくって、そして、誰もいなくなった

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) p.51-53

 歌詞が子供の口調である分、余計に怖く感じます…!

登場人物10人の人間模様

 『そして誰もいなくなった』はクローズドサークルやマザーグースになぞらえた展開など、ミステリ小説としての設定が見事なのは前述の通りですが、登場人物10人の殺人に至る背景や一人ひとりのキャラクター設定の面白さも非常に魅力的な作品となっています。
 判事、警察官、体育教師、医師、執事・・・と年齢や職業も様々で、過去の殺人に至るまでの経緯や考え方についてもそれぞれ違っています。
 ミステリ小説の設定としては初めて読む時が最も楽しめると思いますが、こういった登場人物の心理や背景についての巧みさは再読する時にこそ、更に面白味を増す深い魅力になっていると言えます。

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