ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』の紹介と感想

ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』の紹介と感想ジョン・スタインベック
ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』の紹介と感想
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 ノーベル文学賞作家である米国人作家ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』を紹介します。
今作でスタインベックはピューリッツァー賞を獲得しており、ノーベル文学賞の受賞にも本作の貢献が強いと言われています。
 時代背景や背景に奔流する聖書の物語、それらを照らし合わせながら読み進めると登場人物達の力強い生き様に心が揺さぶられます。現代の私たちの心にも響く名作ですので、昔の作品で読みづらいとは思わずにぜひとも読んでいただきたい作品です。

あらすじ

米国オクラホマ州を激しい砂嵐が襲い、先祖が血と汗で開拓した農地は耕作不可能となった。大銀行に土地を奪われた農民たちは、トラックに家財を詰め、故郷を捨てて、“乳と蜜が流れる”新天地カリフォルニアを目指したが……。ジョード一家に焦点をあて、1930年代のアメリカ大恐慌期に、苦境を切り抜けようとする情愛深い家族の姿を描いた、ノーベル文学賞作家による不朽の名作。

怒りの葡萄(上) (新潮文庫) 文庫
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 この作品は主人公ジョード一家が米国オクラホマから夢のカリフォルニアへ仕事を求めて旅をする物語となっていますが、ただのロードムービーの様な夢のある話ではなく、圧倒的な社会の現実と真剣に向き合っている人間達の苦悩と生き方が描かれています。
 また、僕も含めて日本人の多くは馴染みが少ないと思いますが、作品の背景に聖書の物語があります。作品をより深く解釈したい方は聖書の内容を照らし合わせて読むとより一層本作を楽しむことができるでしょう。

当時の時代背景

大恐慌と社会の機械化

 描かれているのは1930年代のアメリカ、まさに大恐慌時代の真っ只中です。主人公のジョードはオクラホマ州の農家出身ですが、気候の問題で耕作不能に陥ってしまい、「乳と蜜が流れる」と呼ばれる夢のカリフォルニアに旅立ちます。
 この情報を頼りにジョード一家は生きていくために故郷を捨てて旅に出るのですが、仕事が奪われていく過程で印象的なシーンがたくさん描写されています。
 農家であるジョード一家は手作業で耕地を耕していましたが、当時はトラクターを使用し始める大規模農家の普及もあり、ジョード一家は圧倒的な現実に直面し苦悩することになります。そんな状況でもカリフォルニアに行けば果実を摘んで高い賃金を得られると信じて、仕事をもとめてカリフォルニアへ向けて旅に出るのです。

労働力過剰という現実

 しかし辿り着いたカルフォルニアは各地から集まって来た農民で溢れかえっていました。一言で言ってしまえば労働力過剰です。
 大恐慌と機械化によって仕事を失った農民が、甘い宣伝を信じて現場を訪れると厳しい現実が待っていたという、現在にも通ずるところのある深刻なテーマの様に感じます。

不屈の意志で現実と向き合う人間達

 上記の様にまとめてみると当時の社会問題を描いているという簡潔な印象を持つかもしれませんが、実際に小説を読んでいると登場人物の会話の隅々にそれぞれの強い思いが滲み出るように詳しく描かれています。
 夢にすがる心理やぶつけようのないこみあげてくる怒り、圧倒的な現実に抵抗しようとする反骨心など、この作品を読む醍醐味はここにこそあるのかもしれません。
 現在の社会も同様に圧倒的な現実に対して我々は向き合わなければなりません。当時のオクラホマとカリフォルニアから、その人間達の生き方を読むことができるのはとても貴重な読書体験になり得るでしょう。

物語の背景にある聖書

 スタインベックは聖書から強い影響を得た作家であり、それは後年書かれる『エデンの東』でも如実に表れています。
 仕事を失ったオクラホマを脱出し、説教士のケーシーに導かれ「約束の地」カリフォルニアを目指すという構成は旧約聖書の「出エジプト記」がモチーフになっています。また、タイトルにある葡萄ですが、聖書では葡萄が象徴として描かれており、実りと収穫という神からの恵みとして表現されています。
 この様に考えると当時のアメリカ人の読者にとっては、社会問題を痛切に描きつつ背景に自分の信仰が奔流しているというとても深い作品であることがわかります。

最後に

 今日はジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』を紹介いたしました。僕は初めてこの作品を読んだときはとても若く、その時は泥臭く生きることや社会の不条理についてを強く考えるきっかけをもらいました。今あらためて読んでみると、背景にあった聖書の物語やカリフォルニアへの幻想へ向かう人々の心理など、もう少し現実的でまた違った読み方もできるようになりました。それだけ普遍的な人間と社会を描くことができた深い作品なのだと思います。みなさんにもぜひ読んで欲しいと思います。

新訳が早川書房から出ていますので、新潮文庫版の文体が読みにくいという人はこちらも試してみてください。

スタインベック自身が自己の最高傑作と呼ぶ『エデンの東』も興味があればぜひお読みください。

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