辺見庸『もの食う人びと』紹介と感想

※当ブログではアフィリエイト広告を利用しています

辺見庸『もの食う人びと』紹介と感想ノンフィクション
辺見庸『もの食う人びと』紹介と感想
スポンサーリンク

 本書はノンフィクション作家である辺見庸が1994年に刊行した、世界各地を実際に訪れ現地の人々の食事を見て回り実際に自身で食事をした記録を描く「食」を通した紀行文です。本作は講談社ノンフィクション章・JTB紀行文学賞を受賞おり、あの櫻井翔さんも本書をおすすめしたことがあるそうです。どのような魅力がある書籍なのか、ご紹介したいと思います。

あらすじ

人は今、何をどう食べているのか、どれほど食えないのか…。飽食の国に苛立ち、異境へと旅立った著者は、噛み、しゃぶる音をたぐり、紛争と飢餓線上の風景に入り込み、ダッカの残飯からチェルノブイリの放射能汚染スープまで、食って、食って、食いまくる。人びととの苛烈な「食」の交わりなしには果たしえなかった、ルポルタージュの豊潤にして劇的な革命。「食」の黙示録。

もの食う人びと (角川文庫)

 本書では辺見庸さんが世界各国を発展途上国から先進国まで、直接現地に赴いて旅をし、「そこまでやるのか」というほど当時のリアル迫った記録が綴られていく食を通した紀行文となっています。ただのグルメ本ではもちろんなく、観光情報を眺めるような旅行ガイドでもありません。食を通した旅を経て世界各国の社会を描き出し、その視点から我々日本の社会へのメッセージを見出すことにも繋がる一級のノンフィクション作品となっています。

訪れた国々とその食生活

 本書では1992年末から1994年の春までの約2年に渡る、著者の長旅が描かれており章ごとに世界各地の国の食生活が描かれています。その範囲はバングラデシュからロシア、東欧から西欧まで広範囲に及び、徹底的に現地のリアルにこだわった内容になっています。
本書のテーマである食生活についてはもちろんですが、多くの国を訪れ現地のリアルな生活まで体験した内容が書かれているので、海外の旅を追体験することができる紀行文としても非常に優れた一冊となっています。

国民は何を食べているのか

 序章に書かれていますが、辺見庸さんはこの旅に出るまで自身が住む日本の「飽食」に疑念を持っていることを述べています。当時の日本も現在と同様、既に社会は物質的なゆたかさを獲得しており、食事においても飽食状態にありました。そんな疑念が発端となっていることもあり、世界中を旅する際には徹底的に現地のリアルに接してその国の社会がしっかりと反映されるような食事を摂っています。
バングラデシュのダッカでは残飯を食べ、ヨーロッパでは囚人食や汚染された食品まで口にしています。決して観光ツアーで出される外向けのグルメなどではなく、その社会を反映している食生活が描かれています。
 生きていくことに「食」が欠かせない役割であることをあらためて感じることができる内容にもなっていると思います。

食を通して描かれる世界各地の暮らし

 世の中には多くの旅エッセイや本格的な紀行文が存在しますが、本書も食に特化はしているものの世界中の様子を知ることができるという点で、非常に優れた旅本であると言えます。ダッカの人々の貧しさから、ポーランドの炭鉱労働者、ロシアの宗教への信仰の様子など、通常の観光よりも一歩も二歩も奥まで踏み込んだ紀行文として、幅広く楽しむことができる内容にもなっています。旅が好きな人にこそぜひともおすすめしたい一冊です。

現代日本の飽食が描かれる

 序章にて、警世のつもりはなく日本での飽食に疑念を抱き、世界を見てみようと思い立った経緯が描かれています。その後、世界を回ったことで結果的に社会に飽食であることや歴史認識を想起させ影響力を持つことになったのでしょう。
 現在に至っても食品ロスが問題になるなど、本書が描いた飽食への警世のメッセージは色あせていません。その様な普遍的なメッセージとなったのは、そもそも世界の真実に近いリアルな場面を力強い文章で伝えたことにより、結果的に現代の日本に対してもメッセージを与えてくれるかたちになったように感じています。ノンフィクション作家の凄さを本書から学ぶこととなりました。

最後に

 食に対する関心はもちろん、紀行文としても現代社会を見つめる本としても楽しむことができる『もの食う人びと』。とても面白い旅本ですのでぜひとも読んでみてほしいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました