中島らも『エキゾティカ』紹介と感想

中島らも『エキゾティカ』紹介と感想中島らも
中島らも『エキゾティカ』紹介と感想
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 天才作家とも奇才作家とも呼ばれる中島らもさんの『エキゾティカ』を紹介します。
本作はらもさんが1997年に旅をしたアジアの国々をそれぞれの国ごとに題材とした短編小説集です。
題材となった国はタイ、香港、インド、スリランカ、ベトナム、バリ島、韓国、中国。旅行記ではなくあくまでも小説であり、登場人物を通してアジアのディープな文化と人々が描かれていきます。
 僕は若いころにこの本を読んだことがきっかけで海外に興味を持ち、実際にアジアの国々へもほとんど行くことになりました。アジアには宝石やドリアンの様にディープに輝く魅力がぎっしり詰まっています。ぜひ読んでみてください。

あらすじ

香港返還の日。ゲテものを食べ続けるふとった男とそれを見ているやせた男。「どうせ死ぬのになぜ食べる」「どうせ死ぬから食べたいものを食べるんだ」ぽぉんと花火が上がり、香港が中国になる、そのときに―(「聖母と胃袋」)。ハシシュにドリアン、魔都にガンジス。アジアには奇妙なことがいっぱいある。

エキゾティカ (講談社文庫) 

 欧米に比べて日本から近いにも関わらず東南アジアの魅力はあまり知られていない傾向があるかもしれません。治安の不安定さや衛生面での心配もあり、あまり好まない方が多くいるのも頷けます。
しかしアジアの国々にはディープな魅力な詰まった街と人が溢れかえっており、今もまだその魅力は増し続けています。
 海外旅行が好きな方にとっては、近年少しずつ身近な存在になってきつつある東南アジアの国々。1997年に中島らもさんの目を通して映ったアジアの国々はディープな魅力で溢れていたようです。旅行記でもガイドブックでもない、短編小説として描かれているアジアの国々の魅力が、個性豊かな登場人物と街と文化を通して描かれていきます。

一つの国を舞台に構成される短編集

 本作は短編集でありながら、アジアを舞台にするというコンセプトで構成されており、9つの国と物語で構成されています。東南アジアの国々はどこもディープな魅力で溢れており、それぞれで個性豊かな登場人物が現地の街と文化のもと暮らしています。どの国の話が気に入るかは読者それぞれの興味によって様々ですので、ぜひご自身で読んでみてお気に入りを見つけてください。

「聖母と胃袋」

 僕が最も好きな話は香港を舞台に二人の男が食事をしながら語り合う『聖母と胃袋』という話です。
物語の舞台は香港。1997年の香港返還の記念すべき年に、二人の男性が食事をしながら語り合うシーンが繰り広げられます。語り合うには語り合うのですが、一方のふとった男はただひたすらに料理を食べ続け、もう一方の痩せた男はふとった男を軽蔑した様子で冷ややかに見ています。
 瘦せた男は「なぜメシなんか食うんだ。食ったって、どうせ死ぬんじゃないか。」と言い、ふとった男は「このレストランを出たとたんに車にひかれて死ぬかもしれない。その死に際に悔いを残したくないじゃないか。」と言い、話は平行して延々と続きます。
 そんな平行した議論が進むなか、ふとった男は香港の美食を、カニ、ハト、シャコ、ニシ貝、オコゼ、ナマコ…と次々に食していきます。そして舞台である香港返還の日、街はお祝いモードに包まれ歓声があがります。二人の食事と会話がどうなるかは、ぜひ直接読んで確かめてほしいと思います。

「GOD OF THE DOG」

 もう一つお気に入りの話を紹介します。「GOD OF THE DOG」という、こちらは韓国を舞台にした話です。
 デザインスタジオを営んでいる井上が雇っているコピーライターの金村という20代男性は、ルーツが韓国にあるということを井上に打ち明けて仲の良さもあり、そのルーツを辿りに実際に韓国の釜山を訪れるという話です。そのルーツを何をもって確認するかというと「犬」。日本人の感覚からするとギョッとするような、かつてあった韓国の食文化に触れており、今は表沙汰になっていないだけで実際に韓国に行けば確かめられると言います。そしてそれは日本でいうところの「鯨」であり、非難するわけでもなくただただ自分のアイデンティティーを知ることが金村の目的です。しかし井上は愛犬家であり、二人の不思議な韓国訪問がディープに描かれていきます。

いずれの話もそれぞれの国の食にまつわるストーリーで、本当によくメシを食っているという印象です。食はその土地で生まれた文化を表しており、その国を知るのに重要な要素になります。そんな食を通してアジアの魅力を垣間見ることができる話です。

最後に

 紹介した以外にも他に7つの国の物語が綴られており、それぞれの国にテーマが存在しディープに描かれています。宝石や音楽、ムエタイまで、深い魅力を持ったそれぞれの文化、下手な旅行記を読む以上に好奇心が刺激される1冊になっています。
 僕は若いころにこの本を読み、収録されている国にはほとんど行くことができました。もともと海外旅行や東南アジアに興味など持っていなかった僕を、がらっと変えてしまった刺激的な1冊です。

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