宇沢弘文『社会的共通資本』紹介と感想

宇沢弘文『社会的共通資本』紹介と感想新書
宇沢弘文『社会的共通資本』紹介と感想
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 宇沢弘文の『社会的共通資本』を紹介します。ノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われた宇沢弘文が提唱した社会的共通資本という考え方は、近年の極度に進んだ経済成長の恩恵と弊害を考えるうえでとても重要なものです。2000年に出版された本書ですが、経済成長による弊害が増え続ける現代だからこそ本書の考え方が胸に響くのかもしれません。
 強欲な競争社会ではなく「ゆたかな社会」を形成していくために大切なことが学べる経済学の名著です。

社会的共通資本とは

 まずは社会的共通資本という考え方の基本を紹介します。
すべての人々のゆたかな暮らしを実現するために欠かせないものを、社会全体にとっての共通財産として社会的な基準で管理していこうという考え方で、欠かせないものが指しているのは、大きく分けると自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本のことです。制度資本が指すのは教育、医療、金融、司法、行政です。これらの領域を社会的共通資本と考え、市場原理主義に従った利益追求の対象にせずに社会全体で管理していくことを目指した考え方のことが紹介されていきます。

社会的共通資本
  • 自然環境(農業・漁業・林業)
  • 社会的インフラストラクチャー(都市・自動車・公共交通機関)
  • 制度資本(教育・医療・金融・司法・行政)
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各領域ごとの紹介

 本書では、まず社会的共通資本の基本的な考え方が述べられ、次章以降から日本の場合においてのそれぞれの領域について詳しく説明がなされます。紹介される領域は、農業、都市、教育、医療、金融、環境です。それぞれの章において、様々な知見をもとにゆたかな社会をつくるための考え方が、非常に詳しくそしてわかりやすく書かれています。

 例えば教育の章では、学歴の高さと経済的成功の間の統計的相関はあまり高くないというデータをもとに、学校が果たしている役割は個人の専門的能力の向上ではなく、社会的統合によるものであることをはっきりと言い切っています。個人が競争社会で勝ち抜いていく方法を説くのではなく、よりよい社会にすることを重視した考え方が非常によく伝わる話かと思います。

最後に

 経済学と言うと金儲けや競争社会のことを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、本来は全ての人々が豊かで平等に暮らすためにどうすればよいのかを考える学問です。本書で唱えている社会的共通資本という考え方は、まさにその基本的理念が反映された社会的な正義感の強い心温まるものです。
 ぜひ多くの人に読んで欲しい名著だったので紹介させていただきました。

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