白井 聡『武器としての「資本論」』紹介と感想

白井 聡『武器としての「資本論」』紹介と感想本の紹介
白井 聡『武器としての「資本論」』紹介と感想
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 『永続敗戦論』や『国体論』などのベストセラーで知られる白井聡さんの『武器としての「資本論」』を紹介します。『資本論』の入門書は多く出版されていますが、本書の特徴は現代の人々の生活に照らし合わせて『資本論』を読み解いているところです。
 まさに『武器としての「資本論」』と言える、現代を生きる上で助けとなる考えが詰まった一冊。

資本主義を内面化した人生

 本書の最も面白くてタメになると感じたところが、日本人の価値観に資本主義が浸潤していることに気付かせてくれるところです。「資本論」の入門書は多く出版されていますが、現代の日本人の生活に照らし合わせて説明してくれる本は少ないかと思います。
 本書『武器としての「資本論」』は例えば、下記の様な問いに「資本論」の価値観を通して答えてくれます。

本書から得られる解決のヒント
  • 「なぜ上司が嫌な態度を取るのか」
  • 「なぜ毎日、満員電車で押しつぶされながら会社に行かなければならないのか」
  • 「なぜ人生がつまらないのか」

 いずれも本当に良く聞く人々の仕事における悩みかと思います。こういった悩みも「資本論」を読み解くことで資本主義が人々に内面化してしまったことに原因があることがわかるようになります。もちろんこれを読んですぐに上司が好意的な態度を取ってくれたり、電車の混雑が緩和されたり、人生が急に楽しくなることはありませんが、悩みの原因を論理的に知ることができるとその悩みと対峙することができるようになります。
 現代でも労働にまつわる多くの社会問題が報じられており、人々は生活をするためにそんな社会で明日からも生き延びていかなければなりません。時には過労が生死に関わるほど深刻な問題に発展することもあり、そんな社会に知識なく飛び込んでしまうと身を滅ぼしてしまうことになりかねません。
 そんな社会で生き延びるために、読者自身が資本主義社会の本質を理解する手助けとなってくれる、まさに「武器」としての一冊になっています。

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入門書としては「資本論」の第一巻を引用

 「資本論」は全3巻まで書かれており、第2巻~第3巻は著者のマルクスの死後に共著のエンゲルスが編集して出版しています。本書『武器としての「資本論」』では、そのなかから主に第1巻の内容から現代社会について考察をしています。第1巻には「労働日」と題された有名な章があり、当時のイングランドで実際に起こった悲惨な工場労働の実情から工場法の制定までが書かれています。
 

ここがポイント
  • 「資本論」全3巻の中から第1巻の内容から考察している

 「資本論」は資本の発展についてだけでなく労働の在り方についても多くの示唆を与えてくれる本で、第1巻は特に労働についての項目が詳細に書かれているので本書の方針にもぴったりです。生きていくうえで切って離せない「労働」について、一度しっかりと時間をかけて考察してみることはとても価値があることなんじゃないかと思います。

ひとりひとりへの啓発

 本書の中で「必要」の定義についてが多く論じられています。労働者の賃金形成について考える時に、その労働者の生活に必要な賃金が論じられることになりますが、労働者ひとりひとりによって「必要」の定義が大きく異なってきます。家賃の安い地域で半額に値下げしてくれる惣菜が帰るスーパーがあれば充分に生活できるという人もいれば、住宅と車を購入して毎週末は家族と少し贅沢な外食を楽しむことを「必要」と捉えている人ももちろんいます。
 何が必要であるのかはその社会の文化が決めると白井さんはおっしゃっています。本書を読むことで物の価値とは何かをあらためて考え直すきっかけにもなるかと思います。

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