アガサ・クリスティ『杉の柩』紹介と感想

アガサ・クリスティ『杉の柩』紹介と感想本の紹介
アガサ・クリスティ『杉の柩』紹介と感想
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アガサ・クリスティの『杉の柩』を紹介します。クリスティが多作であることもあって、他の代表作品に比べて知名度こそ低いですが「こんなに面白いのに何故?」と思ってしまうほど面白い作品です。『杉の柩』はミステリとしてだけでなく、登場人物の深い心理描写が最大の魅力となっています。

あらすじ

幼馴染でいとこ同士のロディーとエリノアは婚約関係にあり、将来的には大金持ちの叔母、ローラ・ウェルマンの遺産を引き継ぐことになっていました。しかしウェルマン家の門番の娘メアリィにロディ―が一目惚れをしてしまいます。

 その後、悲しみを堪えながらも婚約を解消したエリノアは遺品の整理のために、叔母の家へ・・・。
たまたまそこに来ていたメアリイと看護婦のホプキンスにエリノアがお昼をふるまったところ、なんとメアリイだけが死んでしまいます…!逮捕され、拘束されるエリノア。しかし彼女は言います「私は犯人ではない」と・ ・ ・ 。

 一方この事件の解決は、医師であるピーター・ロードという男が私立探偵のエルキュール・ポワロに依頼するところから始まります。嫉妬が動機とされ食事と毒殺の関係が説明されている以上、エリノアを無罪と証明することは困難極まりない状況に思えますが、このピーター・ロードがエルキュール・ポワロにこう言います。

「あの人の無罪を証明するような事実をなんでもいいから見つけていただきたい」

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) p.172

こうして灰色の脳細胞と言われる、名探偵ポワロが事件の真相を暴くべく調査に乗り出すことになります。

本作の構成 全3部から

 本作はクリスティ作品で唯一の法廷ものであり、事件の全貌が明らかになるまで下記のような構成で物語が進められていきます。

『杉の柩』目次一覧
  • プロローグ:法廷の描写
  • 第一部:事件発生までの状況描写
  • 第二部:ポワロ調査開始
  • 第三部:エリノアの裁判

ひとつずつ見ていきましょう

プロローグ 法廷の描写

 冒頭は容疑者であるエリノア・カーライルが法廷で聴衆に晒されているシーンが描かれます。
 本編を読み進めていく途上に時折こちらを読み直すことがあるのですが、真相に近づくにつれてここの法廷での描写が心に迫るものへと変化していく楽しみがあります。そのため私はこの構成を非常に気に入っています。読み方はそれぞれかと思いますが、みなさんはいかがでしょうか。

第一部:事件発生までの状況描写

 本事件でのメアリィ死亡までの状況が克明に描かれます。特にエリノアの心理は非常に克明に描かれており、メアリィへの嫉妬心だけでなく純真無垢で健気さへの理解もある、とても理性的な女性があることが非常によく伝わってきます。
 こういった繊細な心理描写が長年に渡って読み継がれる古典となり得るクリスティの凄さとも言えるのだと思いますし、実際にこういった女性の心理描写を好んで本作を一番のお気に入りというクリスティファンの読者も多いようです。

第二部:ポワロ調査開始

 あらすじで書いた通り、ピーター・ロードの懇願によってポワロが本格的に調査に乗り出します。毒殺の現場となった食事の調査から、看護婦のオブライエンとホプキンスの証言から、更にはローラ・ウェルマンの周辺にまで詳細な調査は及びます。

第三部:エリノアの裁判

そして第三部のエリノアの裁判にて本事件の真相がエルキュール・ポアロの推理によって説明され全てが明らかになります。こちらはぜひ楽しみながらお読みいただければと思いますが、第三部はもちろん本作のクライマックスであり、真相を知ることができる喜びと登場人物それぞれの結末によって、僕の心は非常に満たされました。本当に素敵な物語です…!

最後に

 アガサ・クリスティー作品の中でも、本作は唯一の法廷ものだそうです。それゆえに裁判の場面も多く目まぐるしく状況を理解する必要がありますが、真相への好奇心と心理描写の巧みさのおかげで苦も無く読み通せることでしょう。
 『杉の柩』はこんなにも面白いのに何故かあまり知られていない感があります。読んだことがない方は(すぐにでも!)読んでみることをすすめます。

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