ルドガー・ブレグマン『隷属なき道』紹介と感想

ルドガー・ブレグマン『隷属なき道』紹介と感想本の紹介
ルドガー・ブレグマン『隷属なき道』紹介と感想
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 「ピケティにつぐ欧州の新しい知性」と評されるルドガー・ブレグマン氏の『隷属なき道』を紹介します。本書の副題は「AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」というもので、ベーシックインカムを提唱する一冊になっています。
 出版当初29歳だった若きジャーナリストの著者の専攻は歴史学で、過去の世界各国で行われた取り組みからベーシックインカムの有効性を検証していきます。近年少しずつ話題になっているベーシックインカムについて、賛成反対ともに様々な考え方があるかと思いますが、いずれにしても考えるうえでとてもに事例が多く紹介されているので、ぜひ読んでおきたい一冊だと思います。

実践されるはずだったベーシックインカム制度の事例

 アメリカのニクソン大統領は、1969年にすべての貧困家庭に無条件に収入を保障する法律を成立させようとしていました。家族4人の貧困家庭には、年1600ドル(現在の価値に換算すると約10000ドル)を保障するというもので、まさにベーシックインカム制度が実施されようとしていたのです。しかし計画公表前に150年前に実践されたベーシックインカム制度によく似た制度の失敗例が報告され、成立は実現されませんでした。 その制度というのはイギリスのスピーナムランド制度というもので、あのカール・マルクスですら『資本論』のなかでこの制度を非難したこともあり、ベーシックインカム制度を非難する派閥は超強力な後ろ盾を得ることになったのです。

 しかしその後1970年代になると、歴史家の調査が進展するとスピーナムランド制度の報告書そのものが捏造だったことが発覚します。「貧困のない生活は働いて手に入れるべき特権であり、誰もが得られる権利ではない」という考えが大いなる誤解だったことを明らかにしています。

国境を開放すること

 本書では、現代まで行われている先進国における開発援助についても触れています。そしてその開発援助の実情を取り上げるとともに、国境をなくして移民を解放することで世界中の富が増大することを説きます。
 MITの教授エスター・デュフロが実践した開発援助の実例から、現状の開発援助の限界を見出し、移民にまつわる数々の誤謬を解きほぐし国境を開くことで貧困は解決できると説いています。19世紀の貧困は階級によって生じていたため労働者の団結で革命が説かれましたが、当時に比べて現代は比べ物にもならない程に富を生み出しています。そんな現代において議論するべきなのは階級ではなく場所の問題であり、それによって差別はなくなり全ての人々に豊かになる機会が訪れることになります。

 エスター・デュフロの開発経済についての著書はこちら。

世界は過去最大に繁栄している

 本書では豊富な過去の事例とデータをもとに、いかに現代がゆたかな時代であるかを問いかけます。
そしてそれと同時に、過去の世界から見ればユートピアそのものである現代社会において、富裕国の国民の大半が良い世界を思い描くことができずに心を病んでいる現状も指摘しています。世界史的な視座で多くの事例を語りながら、資本主義だけではこの現状を打破できないことを語り、21世紀の新しい道を探すべく読者を啓蒙します。彼はこの様に前向きな未来を語ってくれて本書を締めくくってくれます。

人が語る常識に流されてはいけない。世界を変えたいのであれば、わたしたちは非現実的で、部分別で、とんでもない存在になる必要がある。思い出そう。かつて、奴隷制度の廃止、女性の選挙権、同性婚の容認を求めた人々が狂人とみなされたことを。だがそれは、彼らが正しかったことを歴史が証明するまでの話だった。

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働 p.269-270

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