東海林さだお『いかめしの丸かじり』紹介と感想

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エッセイ
東海林さだお『いかめしの丸かじり』紹介と感想
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 東海林さだおさんの食のエッセイである丸かじりシリーズから『いかめしの丸かじり』を紹介します。漫画家でありエッセイストの東海林さだおさんが、毎回一つの食事をテーマに思いを巡らせていくエッセイです。
 メッセージ性などを極限までそぎ落とした、本当にどうでもいい考えが書き続けられていき、
日頃の悩みや不安なども一緒に全てどうでもよくなってしまう不思議な魅力を持った作品です。

丸かじりシリーズ

浦島太郎の心境でひさしぶりのビアガーデンを探訪し、“冷やし”かつ丼にドキッとし、四角いおにぎりに出会っては照れくさくなり、ゆでとうもろこしにはうっとり。そして、今や国民弁当となった「いかめし」はなぜあんなに人気があるのか、ヒミツに思いをめぐらすショージ君―大人気シリーズの第32弾!

いかめしの丸かじり (文春文庫) 

 本作はシリーズの第32作とのこと。オムライスからソース焼きそば、タコのぶつ切りまで。私たちに馴染みのある食べ物のどうでも良い気になる点を、大真面目に深く深く考察して書き綴っていっています。
 人生において何か重大な悩みがある時、仕事のストレスで心が擦り減ってしまった時、自分に自信を失くして深く落ち込んでいる時…。そんな時に丸かじりシリーズを読むと、全てどうでも良い気持ちにさせてくれる魔法の様な本なので、大変な状況の方にこそ読んでもらいたい作品です。

食べ物への深すぎる考察

 毎回一つの食べ物に向けてショージさんの鋭い洞察力と留まることを知らない広がりのある発想で、食べ物への深すぎる考察が繰り広げられます。そのなかから僕のお気に入りをいくつか紹介します。

ソース焼きそば

 本作の中で僕が最も好きな話がこのソース焼きそばについての考察です。ショージさんはソース焼きそばのことを「B級の覇者」と呼び絶賛しています。何がB級の覇者なのかというと、「高級化への道を閉ざされている」という点にあると言います。他にもB級グルメと呼ばれる食べ物はたくさんありますが、例えばコロッケは「カニクリームコロッケ」にすると高級感を纏って仕上がりますし、たこ焼きも明石では「明石焼き」となり上品なご当地グルメになります。
 安くて手に入りやすい食材にソースをかけて炒めることがソース焼きそばの魅力であり、ソースが絶対的な味の決め手になるのですが、ここでショージさんは高級食材を例に出して考察を深めます。
仮に豚小間切れをイベリコ豚に、キャベツを軽井沢高原キャベツに、面を北海道産高級小麦粉にしたところで、味の決め手であるソースで思いっきり炒めることで高級化への道は閉ざされることになると説明してくれます。
 そしてソース焼きそばを盛る器で最も適切なものを、プラスチック製のパッカン式容器を輪ゴムで閉じたものだと断言します。

 確かにソース焼きそばは高級化への道はないと大きく納得し、でもソース焼きそばって美味しいねと思える、そんな素敵なお話しが書かれています。

タコのぶつ切り

 「タコぶつ噛み噛み考える」という話も僕のお気に入りのひとつです。
 ショージさんはタコのぶつ切りを、客に気軽な気持ちにさせてくれると言います。鮪の様な斜めに包丁を入れて美しくさばく様な職人仕事感を排して、楽し気にまな板のうえでブツブツと気楽に切っているところを思い描いて注文できるとのことです。
 その後はタコぶつそのものへの考察が続き、ブツの数から先端の丸まりにも関心を持ち、「どの面に醤油をつけるか」という問いも発しています。

 今までタコのぶつ切りをそこまで深く考えたことがなかった私たちは「確かにタコぶつって不思議なメニューだな」と考え直すことになるのです。

アメリカンドッグ

 コンビニのファストフードの常連であるアメリカンドッグについての話も僕は大好きなので紹介します。まずアメリカンドッグに着目するという視点が凄いと思いました。確かに今まで食べたことはあるけれども、好んで意識的に食べたこともなければ友達と話題に出たこともない様な、だけど誰もが知っていて普通に「美味しい」と思っていた食べ物だと、あらためて気づかされました。
 ショージさんははじめはアメリカンドッグのことを「ずんぐりむっくり」と少し否定気味に説明しはじめますが、串を手に取り口に運ぶまでの心境を語りながら最終的に「アメリカンドッグはおいしいよ」という結論に導きます。
 そしてケチャップとマスタードではなく、ソースをかけるとビールに合うつまみになるそうです。真似はしていないので本当かどうはわかりませんが。

最後に

 丸かじりシリーズ第32作である『いかめしの丸かじり』シリーズを紹介しました。
上記以外にもたくさんの「良い意味でどうでも良い」食事にまつわるエッセイがあるので、みなさんも自分のお気に入りを見つけてもらいたいと思います。またいつか他の丸かじりシリーズも紹介できればと思っています。

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