村上龍『コインロッカーベイビーズ』紹介と感想

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村上龍『コインロッカーベイビーズ』紹介と感想日本文学
村上龍『コインロッカーベイビーズ』紹介と感想
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 村上龍さんのデビュー3作品目であり、作家としての地位を不動のものにしたのが本作『コインロッカーベイビーズ』です。今尚、本作を村上龍さんの代表作と呼ぶ人も多く、著名人でも多くの人が本作から強い影響を受けたと公言しています。
 村上春樹さんも本作を読んで長編小説を執筆することを決意し、初期の代表長編小説『羊をめぐる冒険』を執筆したと言われています。今でも魅力が色あせることのない作品であり、代表作でもあるのでまだ村上龍さん作品を読んだことがないという人は本作から読み始めてみるのがおすすめかもしれません。

あらすじ

一九七二年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。毒薬のようで清清しい衝撃の現代文学の傑作が新装版に。

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫) 

 1971年以来、社会問題化したコインロッカーに乳幼児を置き去りにする事件が多発しました。この乳幼児遺棄事件を題材とした小説です。本作はこの社会問題自体を描くのではなく、コインロッカーで生まれた赤子の人生に焦点を当て、それぞれの生き方が描かれていく小説となっています。

社会的背景

 高度経済成長で日本は豊かさが増していく一方で、急速な成長ゆえに歪みが生じていたことも事実でした。無人化されたサービスも登場し、その代表が駅に設置されたコインロッカーでした。
当時は海外の文化も多く日本に入ってきており、若者たちはドラマや映画を通して価値観を形成していきます。そしてそのなかには経済的・社会的な能力がないまま子供を授かり育児を担うことが困難である母親が多く存在していました。
 この様な社会的背景によりコインロッカーに乳幼児を遺棄する事件が発生し、当時の社会問題となっていました。本作の主人公であるキクとハシはこのコインロッカーに遺棄された乳幼児であり、二人はコインロッカーの中から赤子ながらに自己の存在を周囲に知らせ無事に保護されます。
そんな2人がそれぞれの生き方で当時の社会を生きていくという物語です。2人は既存の社会に強く反抗しながらそれぞれ力強く生き抜いていきます。

キクとハシそれぞれの生き方

 本作の主人公であるキクとハシはそれぞれ特徴がありますが、コインロッカーから発見される際も対照的な発見のされ方をしています。コインロッカーの中でキクは泣き叫び存在を周囲に知らせましたが、一方でハシは病弱であるゆえにロッカー内で嘔吐し、その匂いを盲導犬が発見しています。
 発見のされ方がそのまま個人の生き方に反映されるように、キクは積極性のかたまりで常に能動的に行動をして生きています。一方でハシは柔軟で達観した印象を受け、周囲と溶け込むことで自身の個性を活かして生きているような印象を受けます。

 出生時には社会の犠牲とも言えるような状態だった2人は、既存の社会に強く抵抗するように、決して社会の枠に収まることなく力強く生き続けていきます。その生き方に読み手は心を揺さぶられることになりますが、その際にこのキクとハシという対照的な2人が描かれていることで、それぞれの生き方を考えながら自分の生き方を投影して読むことができるようになります。

最後に

 本作は村上龍さんの代表作であり、今後も長く読み継がれていくことは間違いない傑作だと思います。物語がどの様な内容であったか本記事ではあまり触れられませんでしたが、ぜひともご自身で確かめてみてください。
 文学作品ではありますが、ロックミュージックに傾倒した時の様な高揚感を感じることができる力強い小説です。

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