本作『イビサ』は主人公のマチコが会社を辞めて男性に誘いに連れられ海外へ旅に出るストーリーです。一見すると一人の女性が自分探しの旅に出るといった話のようですが、決してその様なただの海外旅行の物語ではありません。
あらすじ
贅沢な旅を約束されてパリにやってきたマチコは、男のもとをとび出して背徳的で淫靡な生活に幻惑されてゆく。コートダジュール、タンジールへと旅するうちに魂の殻を脱ぎさったマチコは、“イビサへ”と囁く老婆にしたがい、新たな旅へと向かうのだった。村上龍が渾身をこめて描く究極の破滅的ストーリー。
イビサ (講談社文庫) 文庫
旅に出るまで主人公のマチコは快楽に忠実に生きていたのですが、その後精神を病んでしまい幻覚や幻聴に苦しみ、勤めていた会社を辞めることにします。そんな時に出会った一人の男に海外旅行に誘われてヨーロッパへ旅に出ることになります。行先はフランスのパリ、モンテカルロ、そしてモロッコ、バルセロナへ。彼女の内面の苦しみと生きることに向き合う姿勢がヨーロッパの異文化のもとで出会う人々と重なりながら過激な描写で描かれていきます。終始破滅的なストーリーであり決して心地よい読後感は得られませんが、この作品を最後まで読むことで、自分と世界を考えるうえでの極めて本質的な問いを突きつけられることになります。
後述しますが、村上龍さん自身が書くあとがきには辛辣で印象的な「自分とは何か?」というテーマが書かれています。自分探しの旅や自己啓発本などはいつの時代も流行しますが、僕はこの小説を読むことで自分を見つめるということの困難さを痛感しました。読んでいてしんどい描写ばかりではあるのですが、自分と世界について真剣に向き合ってみたいという方にはぜひとも読んでみてほしいと思います。
自分とは何か
読者としては過激な描写を読み進めていき衝撃的な結末を迎えることになるのですが、この作品は結局何を描いているのだろうかとすっきりしない読後感を抱いていました。すぐに答えてくれたのが村上龍自身が書いたあとがきで、「自分とは何か」を読み取ることができる作品だと考えました。
これは、破滅的なストーリーである。自分と向かい合う旅、それを実践した女性の話だ。自分と向かい合うのは危険なことだ。
『イビサ 』(講談社文庫) 文庫
~中略~
自分は何者か?などと問うてはいけない。自分の中に混乱そのものがあるから、ではなく、まったく何もないからだ。
これを読んで自分と向き合うことの難しさと危険さを痛感しつつ、今まで読み進めていたこのマチコの物語について、血が通ったようにすっと理解をすることができるようになりました。マチコが自分を見つけたと捉えるか否かは読み手に委ねられますが、多くの人が思い描く自分探しの旅で見つけるものの結果とはかけ離れた結末になっています。
この現実的な世界では、「何処かに辿り着けば答えがある」という様な安易なことはない。簡潔だが至極当然のことを村上龍さんが私たちに突き付けてくれたように思います。
まとめ
村上龍さんの作品には旅をテーマにした作品が他にもありますが、今作からは旅を通して自分と向かい合うことの困難さを考えさせられることになりました。
以前書いた『KYOKO』もアメリカを舞台にした旅をする物語ですので、比較しながら読んでみると幅が広がってより楽しむことができるかと思います。
最後に
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