2017年にノーベル文学賞を受賞した、カズオイシグロのおすすめ小説を5冊に限定して紹介します。
カズオイシグロが世に出した長編小説は2021年現在で全8冊、短編小説もいくつか出版していますが日本で手に入れやすいのは『夜想曲集』のみです。今回は長編小説のなかからおすすめ小説5冊を紹介します。
もちろんこれは個人の厳選ですので、これを参考にみなさんのおすすめを見つけてほしいと思います。
カズオイシグロ作品の魅力
はじめにカズオイシグロ作品の魅力を紹介させてください。こちらは個人的に感じているものなので、不要な方は読み飛ばして頂いて問題ありません。 (こちらをクリックでおすすめにジャンプします)
カズオイシグロの長編小説は、全て早川書房という出版社のハヤカワepi文庫というレーベルから出版されています。そのため探すのにも苦労せずに、安い値段かつ読みやすい文庫版で簡単に手に入れることができるのが特徴です。(2021年に出版されたばかりの『クララとお日さま』は現時点では未文庫化)
尚、ハヤカワepi文庫の「epi」は”epicentre(発信源)” に由来するようで、「良質な海外文学作品を若い感性を持つ読者に向けて発信」することを目指して創刊されたそうです。実際に書店に行ってハヤカワepi文庫の棚を見ていただくと、カズオイシグロ作品が平積みも含めてぎっしりと揃っていることがわかると思います。
さて、そんなカズオイシグロ作品をまだ読んだことがない方に、読む前に押さえておくと良いポイントを少しだけ紹介します。もちろん、前知識なしで読むことが最大の楽しみであるという意見には同意しますので、そういった方はこちらも読み飛ばしてくださって問題ありません。
イシグロ作品の魅力は、再読に耐え得る名作ばかりであることと、「信頼できない語り手」と呼ばれる手法を味わえることです。ひとつずつ説明します。
再読に耐え得る名作ばかり
イシグロの作品は、登場人物の記憶や感情を彼ら自身が語ることでテーマが浮かび上がってくるものが多く、物語の設定にも伏線が引かれていることが多くあります。そのため、再読した時には既読である別の視点から登場人物の語りを読み取ることになり、初読時に味わう感動とは別の感情をもたらしてくれます。
もう一度読み直したくなるというのは名作・古典である証であり、イシグロ作品の全てにそれがあてはまるように思います。ぜひ何度も読み返しながら作品の魅力を味わってほしいです。
「信頼できない語り手」
イシグロの小説は主人公が読者に語りかける構成で進んでいくことがほとんどです。そのため読み手は人から話を聞くというスタンスでストーリーを理解していくことになり、読み手である私たちは語り手が話してくれる情報だけを頼って物事を理解するしかありません。こういった手法のために、慣れないうちは読みにくく感じることがありますが、語り手に振り回されて疲弊したとしても「読み終わったには深い感動が待っている…!」と思って、最後まで読み通してほしいと思います。
おすすめ小説5選
それでは、ここからはカズオイシグロ作品のなかから、おすすめの小説を一つずつ紹介していこうと思います。まずは第5位から紹介していきます。
⑤忘れられた巨人
アーサー王亡き後の5-6世紀のブリテン島を舞台に、息子に会いにいくためお互いを助け合いながら旅をする老夫婦が描かれています。
初めは不思議なファンタジー作品を読み進める感覚で、慣れていない方は苦労するかもしれませんが、記憶、歴史、愛など様々なテーマを少しずつ描かれていく大作です。他の作品は近代から現代、近未来のイギリスが舞台のものが多いのでそういった点では異色の作品かもしれません。
④浮世の画家
戦後の日本社会を生きる画家の苦悩が描かれた作品。戦後の価値転換に翻弄される人間の生き様を痛感できます。「信頼できない語り手」の魅力も健在で、読み手としては振り回された感が最も強かった作品でした。
③クララとお日さま
本作の「語り手」はAF(Artificial Friend)と呼ばれる、人工知能を持ったクララという少女です。クララを通して描かれる、近未来の社会と人間関係とクララ自身の生き方から、多くのことを考えさせられることになります。
②私を離さないで
イギリスのヘールシャムという場所を舞台に、31歳の介護人キャシーが読者に語り掛けるかたちで物語が進みます。提供者という聞きなれない言葉や、ヘールシャムという場所にも外界から遮断されたどこか閉鎖的な印象を抱きながら読み進めることになりますが、少しずつ明らかになっていく登場人物たちの残酷な運命と生き方に、ラストでは強い切なさと感動を覚え思わず泣いてしまった記憶があります。
①日の名残り
『浮世の画家』の次に発表され、ブッカー賞を受賞した作品。イシグロが世界的な作家の仲間入りを果たした代表作です。
本作も『浮世の画家』と同様に戦後の価値観の転換がテーマとなっており、語り手はイギリスの執事であるスティーブンスという老人です。
本作のラストでは美しい夕陽の描写が綴られ、そんな背景をイメージしながらスティーブンスの生き方に自身を投影することになる、私自身も強く心を揺さぶられた名作でした。
そして何よりも本作は読者へ語り掛ける文章が本当に美しく惚れ惚れします。ここも名作として後世に残るもうひとつのポイントかと思っています。
最後に
カズオイシグロ作品のおすすめ小説5冊を紹介しました。深みのある作品のため多少なりとも苦戦することがあるかもしれませんが、再読にも耐えうる素晴らしい作品ばかりなのでぜひ読んでほしいと思います。
ちなみどの作品から読んでも問題なく楽しめます。『浮世の画家』と『日の名残り』は合わせて読むと比較して楽しむことができるかもしれません。
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