ミシェル・ウェルベック『闘争領域の拡大』の紹介と感想

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ミシェル・ウェルベック
ミシェル・ウェルベック『闘争領域の拡大』の紹介と感想
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 ミシェル・ウェルベックは1958年生まれのフランス人作家で、98年『素粒子』がベストセラーとなり、2010年『地図と領土』でフランスで最も権威のある文学賞であるゴンクール賞を受賞した現代を代表する世界的な作家です。
 2015年にはイスラム教批判とも捉えられる過激な小説『服従』が発売された日に、奇しくもシャルリー・エブド襲撃事件が起きたというスキャンダラスな出来事があり日本でも一挙に有名になりました。
 本作はそんなミシェル・ウェルベックの処女作です。はじめに言っておきますが、冷酷な一面や差別的な表現、性的な描写も多いので心地よい読後にはならないかもしれません。しかし冷酷さに耐えうる魅力もある作品なので、好きな人はのめり込むこと間違いなしかと思います。

あらすじ

今一度思い出してみてほしい。あなたが闘争の領域に飛び込んだ時のことを―。「自由」の名の下、経済とセックスの領域で闘争が繰り広げられる現代社会。自意識の強い顧客、列車の女子学生、同僚の馬鹿女、薄着の看護師…。愛を得られぬ若者二人は出口のない迷路に陥っていく。『素粒子』『服従』ほかベストセラー作家、魂の原点。

闘争領域の拡大 (河出文庫) 文庫

 30代でIT企業に勤める主人公が所謂「非モテ」である友人ティスランを観察しつつ、社会への洞察を語りかけていきます。
 ティスランを洞察しつつ僕は現代社会に対してどんどん嫌気が差していき、非モテに対しても冷酷な視点を持って社会への悲観的な洞察を述べていきます。

非モテの登場人物たち

 本作には非モテの登場人物が出てきますが、その中で主人公の友人であるティスランという男性が印象的です。こだわりが強くルックスもイケてないティスランですが、あらゆる手段で異性に認められようと奔走します。しかしそんな彼の努力も今作では、何一つ報われることなく完膚なきまでに無駄に終わります。ネタバレを避けるため詳細は省きますが、異性に認められようと奮闘したティスランのその後は、何も報われずにただただ非モテに終わるという、小説のエンターテインメント要素を排した極めて現実的な最後が描かれてます。

 さて、こんな暗い内容の物語を通してウェルベックは一体何を表現したいのでしょうか。

闘争領域の拡大とは

「闘争領域の拡大」という何やらピンとこないタイトルですが、これは一体何を表しているのでしょうか。あらすじで書いたように、主人公の僕は非モテの友人ティスランを観察しながら、現代の資本主義・自由主義について冷徹な視点で語っていきます。
その観察のなかから、発展した資本主義・自由主義の流れは経済システムだけでなく、人々のルックスなど生活にも拡大して入り込んできているということを表しているのです。
 下記に本作の印象的な語りを、本文から引用して記載します。

何割かの人間は失業と貧困から抜け出せない。完全に自由なセックスシステムになると、何割かの人間は変化にとんだ刺激的な性生活を送り、何割かの人間はマスターベーションと孤独だけの毎日を送る。経済の自由化とは、すなわち闘争領域の拡大である。それはあらゆる世代、あらゆる社会階層に向けて拡大している。同様に、セックスの自由化とは、すなわち闘争領域の拡大である。それはあらゆる世代、あらゆる社会階層に拡大している。

 物凄く残酷で冷徹な視点だけどきっぱりと否定することは難しい現実的な価値観ですよね。自由の名のもとに現実では経済的な格差が生まれてしまっていることはよく語られますが、生活にもその闘争領域が拡大して入り込んでいるということを指摘している人はあまりいないでしょう。
 この様な極めて現実的で冷酷な視点がウェルベックの最大の特徴に思っています。

最後に

 今日も最後までお読みいただきありがとうございました。正直、とても夢のない作品で暗い気持ちになってしまう人もいるかもしれませんが、長い人生を生きていくためには現実的な価値観は欠かせないので、僕はウェルベックの視点から力強く現実と向き合っていくということを学びました。
 夢はないかもしれませんが、文体も刺激的で新たな視点が得られる作品であることは間違いないので、もし興味があれば読んでみてください。

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