現代フランス思想家であり武道家の内田樹さんの『待場の文体論』を紹介します。
本書は内田樹さんが神戸女学院大学で2010年に行った教師生活最後の講義「クリエイティブ・ライティング」の記録が収録されています。クリエイティブ・ライティングの授業内容は、日本の教育ではありそうで実はあまりない「文章を書き方」を教えてくれる講義です。
この講義の最大の特徴は、塾や予備校で教えて貰える「小論文の書き方」ではなく、本当に伝えたいことを伝えるための文章の書き方を教えてくれるところです。内田樹さんはそれを「読み手に対する敬意」と呼び、言語学から哲学まで幅広い学問に迂回して触れながら説明してくれます。楽しみながらも実践的に、本当に伝えたいことを伝える文章力を学ぶことができる、とても役に立つ一冊になっています。
こんな人におすすめ
本書は半年間開催されていた全14回の講義の記録が収録されており、各回で内田樹さんが文章の書き方について様々な方面からアプローチして語りつくしてくれます。そんな本書は単純に文章力を高めたいという人にはもちろんですが、様々な学問の紹介もあるのでその様な興味関心がある方には単純に読み物としてもおすすめができます。本書をおすすめできるタイプの人を下記の3つに厳選してみましたので、自分と照らし合わせて参考にしてみてください。
- 文章をうまく書けるようになりたいと思っている人
- 人文系学問に興味関心が強い人
- 本を読むことが好きな人
文章をうまく書けるようになりたいと思っている人
「クリエイティブ・ライティング」というだけあって、本書は文章力を磨くうえで大いに役に立つ一冊になります。
しかし一般的に思い描かれているような「文章術」とは異なるものかもしれません。それは本書のなかで内田樹さん自身も書かれていますが、仕事や学校で発生する「合格点をもらうために、こんな勉強をしましたとアピールするレポート」を書く技術ではなく「読み手に対する敬意と愛」を持つ文章を書く技術を磨くものです。コミュニケーションの本質にも関わる、他者に対して本当に伝えたいことを伝えるための文章力について、本当に様々な方面から深く深く考察されていきます。
シンプルでありながら本質的な文章を書くことの意味をあらためて考え直すことができる、貴重な読書体験になるかと思います。
人文系学問に興味関心が強い人
本書は講義形式で進んでいることもあり、はじめは文章を書くことについての講義が行われていますが、博学な内田樹さんの喋りは乗りに乗りまくって大幅な脱線を始めますが、それが最高に面白いんです。文章を書くことを見つめなおすわけですから、序盤は文学についての話が繰り広げられるのですが、言語学を皮切りに様々な学問に触れて果ては哲学や社会情勢にまで話は拡がります。文章を書くことを学ぶはずがいつの間にか内田樹ワールドに入り込んでいる感覚を覚えるかと思います。色々な学問について好奇心がある人にはうってつけの講義ですよ。
本を読むことが好きな人
本書では本当にたくさんの方面の知識が引用され、最終的に「文章を書く」という行為に収束されていきます良い文章を書けるようになりたいという人の中には、そもそも本を読むことが好きだという人が多いのではないでしょうか。
本書で繰り広げられる様々な方面からの引用では、たくさんの本が引用されているため、読書好きにはたまらないブックガイドとしての側面を兼ね備えています。村上春樹からレイモンド・チャンドラー、スコット・フィッツジェラルド、司馬遼太郎から三島由紀夫、エマニュエル・レヴィナス、ジャック・ラカン、夏目漱石…と、
初めてこの本を読んだ時は「世の中には自分が知らない名著がまだまだたくさんあるもんだ」と自分の未熟さを感じたと共に、知的好奇心もグッと湧いたことを覚えています。良い文章を書くためにまずはたくさん良い本を読むことが大切です。本書をきっかけに色々な本を読んでみてほしいと思います。
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