天才作家とも奇才作家とも呼ばれる中島らもの『こどもの一生』を紹介します。あらすじにも書かれている通り「三分の二は笑いに溢れ、最後の三分の一は恐怖に引きつる」展開が魅力です。「超B級ホラー小説」と敢えて呼ばれていることにも納得がいきます。
あらすじ
瀬戸内海の小島をレジャーランドにするためにヘリを飛ばし下見に来た男二人は、セラピー施設に治療のためと称して入院し一週間を過ごすことになった。しかしすでにそこには女二人、男一人の患者―クライアントがいた。五人は投薬と催眠術を使った治療で、こども時代へと意識は遡る。三分の二は笑いに溢れ、最後の三分の一は恐怖に引きつる。鬼才・中島らもが遺した超B級ホラー小説。
こどもの一生 (集英社文庫)
瀬戸内海の小島という閉ざされた世界観のなかで、中島らもが創出した個性的なキャラクターが共同生活を始めます。参加する患者-クライアントは全員が精神病を患っており、こども時代を追体験させてストレスを解消させるという「MMM療法」を彼らに施します。
そして全員がこどもとなって共同生活をするという奇妙な展開に輪をかけて、彼らは「山田のおじさんごっこ」という遊びを始めます。
『こどもの一生』の見どころ
本作で最も印象的なのは、個性的なキャラクターと舞台設定。癖の強い登場人物を「MMM療法」でこども時代に帰してしまい、そんな彼らは「山田のおじさんごっこ」という架空の人物を設定してく遊びを始めます。
こどもに帰って幼少期を追体験させる「MMM療法」
瀬戸内海の小島に連れられてきた精神症患者は、外界から隔離された小島でMMM療法という精神療法を受けることとなります。この治療は精神剤を静脈注射しながら医師と過去の記憶を呼び覚ます対話形式の診察を行い、3年ずつ記憶を退行させて10歳の頃までこども帰りをさせるというものです。そしてこの治療の参加者達にそれぞれの過去が存在し、治療を通して彼らのキャラクターが次々と暴かれていきます。
全員が施術を終えてこども帰りを終えたあと、彼ら5人の壮絶で愉快なやり取りが次々と展開されていくこととなります。
架空の人物を仕立てていく「山田のおじさんごっこ」
この治療を受けた後、彼らは会話をしていくなかである遊びを始めます。それが「山田のおじさんごっこ」という遊びで、山田のおじさんという架空の人物を彼ら共通の知り合いという設定で仕立てあげていくというものです。彼らがつくり上げた山田のおじさん、彼の口癖は「よろしいですかぁ~」や「あたまのさきまでピーコピコ」など。
治療によりこどもに帰った大人たちが「山田のおじさん」という架空の人物をつくり上げるというこの愉快な展開、そんな非現実的な光景ですがとてもコミカルに描かれており、どんどん物語に引き込まれていきます。
引き込まれる終盤へ
そしてこんなコミカルな展開を繰り広げていた物語ですが、終盤はとても恐ろしい物語に様変わりします。その中身はぜひとも実際に読んで確かめていただきたく思っています。
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