中島らも『砂をつかんで立ち上がれ』紹介と感想

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エッセイ
中島らも『砂をつかんで立ち上がれ』紹介と感想
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 天才作家とも奇才作家とも呼ばれる中島らもの『砂をつかんで立ち上がれ』を紹介します。小説のイメージが強いかもしれませんが、著者が日常どんなことを考えているのかを知ることができるのがエッセイの魅力です。エッセイも非常に多く出されていますが、今日はそのなかから著者の読書遍歴に特化した1冊『砂をつかんで立ち上がれ』を紹介します。

あらすじ

本と人との出逢いは、運命だ。偶然、手にしたように見えても、しかるべき人に、しかるべき本が巡りあうようにできている。山田風太郎『甲賀忍法帖』、バロウズ『裸のランチ』、東海林さだお「丸かじりシリーズ」…。イヤミな優等生だった小学校時代、フーテン青年時代、そして印刷会社の営業マンを経て今に至るまで、道草を繰り返しながら出逢ってきた数々の書物へ、愛をこめてつづる、本読みエッセイ。

砂をつかんで立ち上がれ (集英社文庫)

 『砂をつかんで立ち上がれ』は著者が読んできた本についてのエッセイです。書評やブックガイドとは一味違い、あくまでも彼の人生に強く影響を与えた本が、彼の生き方や考え方とともにエッセイのかたちで紹介されています。山田風太郎の『甲賀忍法帖』を初めて読んだときに「ぽろりと目からウロコがおちた」と表現しています。僕自身も本書を読んだときに目から鱗が落ちる様な衝撃を受けたのですが、それは「世の中にはこんなにも面白いものがあるんだ」という強い感動であり、人生への好奇心が際限なく拡がっていった稀有な体験でもありました。
 紹介されている本も良い意味で一般的ではなく、一味違った読書を楽しむための情報源にもなり得ます。何度も読み返したおすすめの一冊ですのでぜひ読んでみてください。

本への考え方

 「震災の置き土産」という話で、阪神淡路大震災によって自宅の本棚が壊滅状態になってしまった出来事が書かれています。こよなく愛した大量の書籍、中には高価なものも多かったようですがそれが全て棚が倒れた上に浸水もしてしまったそうです。現代のようにインターネットも普及していなかったので「また買えば良い」といった考えにもなりづらいでしょうし、全てが台無しになってしまったといった感じかと想像できます。

 しかし著者は決して気が滅入ったりはしていないと言います。何故なら「それら全ての本を”読んだ”から」。「おれは本という物がほしいんじゃなくて、中身が読みたいのだ」と、読書の本質を捉えた力強い考えを語ってくれます。震災からの「置き土産」という表現で、失った物からも価値を生み出している素敵な一節です。

ディープで幅広い本の紹介

 本書で紹介されているのはそんな読書をこよなく愛する中島らもの人生に強い影響を与えた本ばかりです。僕はこの本を初めて読んだ時、知らない本ばかりでそのディープさにも驚きましたが、面白そうという強い気持ちと世間的にはあまり知られていないのでは、という周囲への優越感もちょっぴり感じた記憶があります。広く読まれている本には、それだけの理由があるものですが、広く読まれていなくとも魅力的な作品は本当にたくさんあります。そしてそれらを読むことができたとしたら、それだけで貴重な読書体験ができるということですので、そういった意味でも本作を読むことを通してディープな本への関心を持つのは素晴らしいきっかけになるかと思います。山田風太郎、ウィリアム・バロウズ、東海林さだお、町田康、セリーヌ、と個性的な作家の作品が、らもさんの魅力的な文章で彼の人生経験を通して紹介されます。

最後に

 僕も多大な影響を受けた『砂をつかんで立ち上がれ』を紹介しました。ちなみに本作の表題にもなっている「砂をつかんで立ち上がれ」という話は、ビートたけしの『顔面麻痺』の文庫版解説を掲載したもので、人が厄災とどう向き合うかについて書かれています。僕はこの話を読んで、厄災を嘆かない生き方を強く学びました。人生には不条理とも思える困難がつきものですので、嘆いていても前には進めず有意義な人生は送れないという厳しい現実があります。当時若かった僕にそのことを教えてくれたのがこの話でした。ぜひ読んでみてください。

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