天才作家とも奇才作家とも呼ばれる中島らもさんの『あの娘は石ころ』を紹介します。
中島らもさんは小説家なので面白い小説をたくさん書いていますが、エッセイもたくさん書いてくれています。小説を読んだことがある人はいかにらもさんが常識の枠にとらわれず自由な発想で奇想天外な考えを持っているかわかると思いますが、
そんならもさんが日常どんなことを考えているのかを知ることができるのが彼のエッセイです。今日はそのなかから『あの娘は石ころ』を紹介します。
あらすじ
中島らもの人生は音楽とともにあり。外国に行けば珍しい楽器を買い込み、瓢箪を使って楽器を作る。腰までの髪を切って迎えた会社員一日目には、10cmヒールのロンドンブーツを履いて挨拶回り。楽器には国境がある。だけどそれは案外簡単に通り抜けられる。オリジナルソング付き絶対爆笑ロックなエッセイ。
あの娘は石ころ (講談社文庫)
中島らもさんは作家であるとともにバンド活動も精力的に行っており、音楽への造詣は文学にも勝るとも劣らない深さを持っています。そしてただの音楽好きに止まらず、世界各国に旅へ出たときは現地で民族楽器を購入しコレクションをしているほどのマニアックさもお持ちです。
『あの娘は石ころ』ではらもさんが所有している多彩な民族楽器の紹介を通した音楽への愛を味わい、民族楽器を通して広い世界の文化も知ることができる慧眼の一冊となっています。
自作楽器「ヒョータリン」
本書ではインドのシタール、ロシアのバラライカ、アフリカのカリンバまで、らもさんがお持ちのありとあらゆる民族楽器を通して世界の楽器と音楽文化を読むことができるのですが、それだけには止まらず手作りでオリジナルの自作楽器まで作ってしまっています。
自宅の庭に出来たヒョータンをボディにして作った、その名も「ヒョータリン」という弦楽器です。多額のお金をかけて楽器をコレクションしている人ならよく話に聞きますが、ヒョータンを使って自作するほど楽器を偏愛している人のことを今まで知らなかったので本当に驚きました。本書にはヒョータリンの写真も掲載されていますが、小ぶりなボディに細長いネックを備えた可愛らしい見た目をしており、完成度も相当高いように見えます。
そんな常識外れなほどに楽器を愛しているらもさんの楽器への愛が詰まった音楽エッセイとなっています。民族楽器を通して「世界は広い」と思えること間違いなしのマニアックだがとびきりの読みやすさを兼ね持つ名エッセイです。
「正統ではなく、異端を、王道ではなく、邪道を」
何故これほどまでにマニアックな民族楽器を紹介できるのか。周囲に音楽を演っている人はそこそこいるかもしれませんが、ここまで深くそしてマニアックな人にはなかなかお目にかかれないかと思います。らもさんがどの様な考えを持ってこの様な偏愛とも言える音楽への価値観を持ったのか、初めの章に端的に表現されているように僕は捉えています。
それは「正統ではなく、異端を、王道ではなく、邪道を」という章で、その章の初めにはローリングストーンズの初代リーダーで若くして亡くなった伝説のギタリスト、ブライアンジョーンズについて書かれた話があります。
らもさんはビートルズよりもストーンズのファンであり、どちらかと言うと王道とは逆のものを好む少年だったと言い、ストーンズについてもあらゆる点でビートルズの方が優れているということを「充分に踏まえた上でストーンズのファンになった」と書いています。音楽について言語化をして理屈で説明することは非常に難しいのですが、この説明の仕方は僕にとっては非常に腑に落ちたもので、「この人は本当にストーンズが好きなんだな」と思えるものでした。この様に異端を好み邪道を進みながら音楽を愛し続けてきたらもさんは、実際に世界を旅する様になってから現地で民族楽器を買うという異端な音楽好き作家の道を突き進んでいったのです。これは僕の憶測ですが、ブライアンジョーンズもギターのみならず多彩な楽器を演奏できることで有名ですので、その影響も大きかったのではないかと考えられます。刺激的で音楽好きにはたまらない一冊になっていますので、音興味がある人はぜひ一読することをおすすめします。
最後に
「ヒョータリン」を自作してしまうほど音楽を愛する作家中島らもさんの音楽エッセイ『あの娘は石ころ』を紹介しました。異端な点を強調したため、内容がマニアックと思われ敬遠してしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、らもさんの文章力は流石でとても読みやすく随所に笑いも散りばめられた手頃な一冊になっています。シンプルな考えですが、音楽がある人生の方が楽しく生きていけると思っています。音楽への興味を搔き立ててくれる一冊ですのでぜひ読んでみてください。
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